第123回
2018.02.24
13:15~16:45
特別企画
シンポジウム
物 語 論 の 諸 相
世界にはさまざまな出来事が生起し、人間が時間のなかでつむぐ生もまた、さまざまな出来事から織り上げられている。ひとは一方で、共同的な出来事を、歴史として物語る。他方でひとは、自らの来し方を振りかえる際にも、人生を物語のかたちで語り出すことだろう。出来事と出来事のあいだを結びあわせる物語は、かくて、人間が世界を秩序立てて理解するために不可欠な、認識の営みであることとなる。人間が、自らの境位を過去の来歴に結びついた「いま」として位置づける歴史的存在であるかぎりで、共同的な物語と私的な物語とは、人間の実存の一点において交錯する。物語=歴史を明らかにすることは、それゆえ、物語る存在としての人間を解明することにも通じていよう。
本企画では、物語という営みに着目した哲学者たちを三人の提題者が読み解き、物語論の諸相を明るみに出す。三者はそれぞれ、ハンナ・アーレント、ポール・リクール、そして分析哲学の物語論を紹介することで、物語論の議論状況を提示する。橋爪大輝は、アーレントの「始まり」概念が、人間行為を出来事の端緒と見なす物語の営みにおいてはじめて機能する次第を示す。小泉圭徳は、リクールの「先行形象化」概念を取り上げ、人間的な行為を物語る私たちの「物語ること」一般についての解明として解釈することを試みる。長門裕介は、英語圏における物語自我論やナラティブを用いた価値の説明とそれに対する批判を紹介する。そのなかで、いわゆる「大陸系」と「英米系」の垣根を越えて、一箇の主題が展開されていることも示されるであろう。両者の相克のうちに、それぞれの特異性を浮き彫りにするだけでなく、共通性をあぶり出すこともまた、本企画の狙いのひとつである。
提題者
小泉圭徳
橋爪大輝
長門裕介